矢野顕子トリオ 10th Anniversary Projectの画像
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  • 矢野顕子トリオ 10th Anniversary Project

    矢野顕子トリオ feat. ウィル・リー&クリス・パーカー

  • トリオ10周年記念!2018年8月のブルーノート東京公演のライブCDやオリジナルグッズなどWIZY限定の商品を販売!

  • 2018.7.27

  • 【トリオ10周年記念】原田和典(音楽評論家)よるレビュー記事公開!

    音楽評論家である原田和典より、トリオ10周年を記念したレビュー記事が到着いたしました。トリオの魅力が詰まった記事は、要チェック。


    どこへ連れていってくれるのだろう、どんな世界にいざなってくれるのだろう。わくわくどきどきしながらライヴ会場に向かい、すべての音を味わいつくして帰路につくときは「また新しい喜びを知ってしまった」という充足感でいっぱいになる。全員が豊富すぎるほどのキャリアを積んだマスター・ミュージシャンだというのに、その音楽には新鮮味が泉のように沸きまくっている。毎度毎度「次はどうなるか?」と期待だらけにしてくれるグループなど、そうあるものではない。

    矢野顕子、ウィル・リー、クリス・パーカーの黄金トリオが10周年を迎える。「もうそんなに経つのか」「あっという間だった」というのが発足当初から聴いてきたファンの実感だろう。おそらくそれはミュージシャンにとっても同様なのでは、と個人的には考えている。この3人で行なう“音の語らい”があまりにも楽しくて出会いを重ねているうちに、気がつくと10年が経過していた…そのあたりが実相なのではないだろうか。2009年から2017年にかけて演奏されたレパートリーはトータルで65曲。今年もさまざまな“新曲”が盛り込まれること間違いなしだ。

    トリオ
    Photo by Mayumi Nashida

    ウィル・リーとクリス・パーカーは、1970年代からニューヨークの音楽シーンの最前線で活躍してきた百戦錬磨のトップ・プレイヤーたち。“ブレッカー・ブラザーズ・バンド”、“ジョー・クール”などいくつものジャズ・フュージョン・ユニットで鉄壁のリズム・セクションを組んできた。ウィルのベース・プレイは“オールマイティ”のひとことにつきる。重厚な低音でサウンドの底辺を担うかと思えば、歌に寄り添うがごときメロディアスなプレイも行ない、ときにエフェクターを駆使してハード・ロックのエレクトリック・ギター奏者のように音を歪ませて熱演する。共演者にはマライア・キャリー、ディアンジェロ、シンディ・ローパー、ビリー・ジョエル、エース・フレーリー(キッス)など数々のビッグ・スターが並ぶ。加えてヴォーカリストとしても抜群の実力の持ち主であり、矢野顕子トリオのパフォーマンスでも彼のベース弾き語りは大きな呼び物となっている。

    ウィル

    いっぽうクリスはボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、ボズ・スキャッグスといったカリスマたちのバックを担当し、70年代後半には、これも語り草のジャズ・フュージョン・ユニット“スタッフ”でスティーヴ・ガッドと絶妙なツイン・ドラムを聴かせた。美麗な音色、流れるようなフレーズ、強靭なグルーヴの三拍子が揃ったクリスの演奏ぶりは繊細にして豪快。画家としても濃密な活動を続ける彼の、彩り豊かな音使いが満喫できるのもトリオの限りない魅力のひとつだ。

    クリス

    この両名の生み出すリズムが、矢野顕子の当意即妙で変幻自在なヴォーカルやピアノと呼応し、絡み合う。3人は歌と伴奏の垣根など軽々と飛び越え、カテゴリーや言語の壁も粉砕しながら、一大ミュージック・エンターテインメントを繰り広げる。ラウドなロックもあれば、静寂と遊ぶような室内楽的ナンバーもある。矢野がピアノから紡ぎ出すアドリブにウィルがすかさず呼応し、クリスが強烈なアクセントをつける。豊かなダイナミクス(メリハリ)、音の駆け引き。それがたまらないスリルを運ぶ。

    ライブソロ
    Photo by Makoto Ebi

    選曲も、何がどこで飛び出すかわからない面白さに満ちている。ぼくは“今日のオープニング・ナンバーはなんだろう”と考えをめぐらせつつ、例年のBLUE NOTE TOKYO公演に足を運んでいるのだが、一度として予想が的中したことはない。もちろん、あっと驚くナンバーの矢野顕子トリオ流解釈はステージのいたるところで賞味できる。レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」、キンクスが初演しヴァン・ヘイレンのカヴァーでも流行した「You Really Got Me」はこちらの身をのけぞらせるほど小気味よかった。また、ラスカルズの「People Got To Be Free」は2009年、10年、12年の各公演で取り上げられており“矢野トリオでこの曲を知った”というリスナーも多いのではと思う。97年リリースの『Oui Oui』に収められていた渚ゆう子の「京都慕情」(作曲はベンチャーズ)、2014年リリースの『飛ばしていくよ』でも取りあげられていたオフコース(小田和正が率いていたグループ)の「Yes, Yes, Yes」など、矢野のソロ・アルバムで聴けるカヴァー曲を、この3人ならではのコンビネーションで楽しめるのも贅沢な気分に拍車をかける。2016年と17年の公演では、伊福部昭と古関裕而がそれぞれ書いた映画主題歌をマッシュアップした「ゴジラ vs モスラ」も披露された。昭和映画ファンや特撮ファンのエモーションを喚起せずにはおかないあの旋律が、大胆不敵なアレンジでジャズ・クラブの空気を震わせるのだから痛快だ。

    トリオ
    Photo by Makoto Ebi

    そしてもちろん矢野顕子自身のオリジナル曲も、このトリオならではのフィーリングで生まれ変わる。昨年の公演で最新弾き語りアルバム『Soft Landing』の表題曲をいち早く聴かせてくれたのも実に嬉しかったし、「ひとつだけ」、「ごはんができたよ」、「David」といったエヴァ―グリーンもこの日・この時にしかない表情を湛えて聴衆に差し出される。“この曲に、こういう一面があったのか”、“この曲がこんなふうになるなんて!” 音楽はナマモノなり。それをしたたかに伝えてくれるのも矢野顕子トリオの尊さなのである。 幅広いレパートリー+ハイレベルな歌唱&演奏+独創性のてんこ盛りで、唯一無二の道を進む矢野顕子トリオ。4月にニューヨーク「ジョーズ・パブ」で行なわれた公演も大好評だったときく。8月から始まる日本公演では結成10周年を踏まえつつ、さらに大胆不敵に、次なるデケイドを視野に入れた圧巻のステージで聴き手を引き込む。

    原田和典(音楽評論家)


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レポート

  • 2018.7.27

  • 【トリオ10周年記念】原田和典(音楽評論家)よるレビュー記事公開!

    音楽評論家である原田和典より、トリオ10周年を記念したレビュー記事が到着いたしました。トリオの魅力が詰まった記事は、要チェック。


    どこへ連れていってくれるのだろう、どんな世界にいざなってくれるのだろう。わくわくどきどきしながらライヴ会場に向かい、すべての音を味わいつくして帰路につくときは「また新しい喜びを知ってしまった」という充足感でいっぱいになる。全員が豊富すぎるほどのキャリアを積んだマスター・ミュージシャンだというのに、その音楽には新鮮味が泉のように沸きまくっている。毎度毎度「次はどうなるか?」と期待だらけにしてくれるグループなど、そうあるものではない。

    矢野顕子、ウィル・リー、クリス・パーカーの黄金トリオが10周年を迎える。「もうそんなに経つのか」「あっという間だった」というのが発足当初から聴いてきたファンの実感だろう。おそらくそれはミュージシャンにとっても同様なのでは、と個人的には考えている。この3人で行なう“音の語らい”があまりにも楽しくて出会いを重ねているうちに、気がつくと10年が経過していた…そのあたりが実相なのではないだろうか。2009年から2017年にかけて演奏されたレパートリーはトータルで65曲。今年もさまざまな“新曲”が盛り込まれること間違いなしだ。

    トリオ
    Photo by Mayumi Nashida

    ウィル・リーとクリス・パーカーは、1970年代からニューヨークの音楽シーンの最前線で活躍してきた百戦錬磨のトップ・プレイヤーたち。“ブレッカー・ブラザーズ・バンド”、“ジョー・クール”などいくつものジャズ・フュージョン・ユニットで鉄壁のリズム・セクションを組んできた。ウィルのベース・プレイは“オールマイティ”のひとことにつきる。重厚な低音でサウンドの底辺を担うかと思えば、歌に寄り添うがごときメロディアスなプレイも行ない、ときにエフェクターを駆使してハード・ロックのエレクトリック・ギター奏者のように音を歪ませて熱演する。共演者にはマライア・キャリー、ディアンジェロ、シンディ・ローパー、ビリー・ジョエル、エース・フレーリー(キッス)など数々のビッグ・スターが並ぶ。加えてヴォーカリストとしても抜群の実力の持ち主であり、矢野顕子トリオのパフォーマンスでも彼のベース弾き語りは大きな呼び物となっている。

    ウィル

    いっぽうクリスはボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、ボズ・スキャッグスといったカリスマたちのバックを担当し、70年代後半には、これも語り草のジャズ・フュージョン・ユニット“スタッフ”でスティーヴ・ガッドと絶妙なツイン・ドラムを聴かせた。美麗な音色、流れるようなフレーズ、強靭なグルーヴの三拍子が揃ったクリスの演奏ぶりは繊細にして豪快。画家としても濃密な活動を続ける彼の、彩り豊かな音使いが満喫できるのもトリオの限りない魅力のひとつだ。

    クリス

    この両名の生み出すリズムが、矢野顕子の当意即妙で変幻自在なヴォーカルやピアノと呼応し、絡み合う。3人は歌と伴奏の垣根など軽々と飛び越え、カテゴリーや言語の壁も粉砕しながら、一大ミュージック・エンターテインメントを繰り広げる。ラウドなロックもあれば、静寂と遊ぶような室内楽的ナンバーもある。矢野がピアノから紡ぎ出すアドリブにウィルがすかさず呼応し、クリスが強烈なアクセントをつける。豊かなダイナミクス(メリハリ)、音の駆け引き。それがたまらないスリルを運ぶ。

    ライブソロ
    Photo by Makoto Ebi

    選曲も、何がどこで飛び出すかわからない面白さに満ちている。ぼくは“今日のオープニング・ナンバーはなんだろう”と考えをめぐらせつつ、例年のBLUE NOTE TOKYO公演に足を運んでいるのだが、一度として予想が的中したことはない。もちろん、あっと驚くナンバーの矢野顕子トリオ流解釈はステージのいたるところで賞味できる。レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」、キンクスが初演しヴァン・ヘイレンのカヴァーでも流行した「You Really Got Me」はこちらの身をのけぞらせるほど小気味よかった。また、ラスカルズの「People Got To Be Free」は2009年、10年、12年の各公演で取り上げられており“矢野トリオでこの曲を知った”というリスナーも多いのではと思う。97年リリースの『Oui Oui』に収められていた渚ゆう子の「京都慕情」(作曲はベンチャーズ)、2014年リリースの『飛ばしていくよ』でも取りあげられていたオフコース(小田和正が率いていたグループ)の「Yes, Yes, Yes」など、矢野のソロ・アルバムで聴けるカヴァー曲を、この3人ならではのコンビネーションで楽しめるのも贅沢な気分に拍車をかける。2016年と17年の公演では、伊福部昭と古関裕而がそれぞれ書いた映画主題歌をマッシュアップした「ゴジラ vs モスラ」も披露された。昭和映画ファンや特撮ファンのエモーションを喚起せずにはおかないあの旋律が、大胆不敵なアレンジでジャズ・クラブの空気を震わせるのだから痛快だ。

    トリオ
    Photo by Makoto Ebi

    そしてもちろん矢野顕子自身のオリジナル曲も、このトリオならではのフィーリングで生まれ変わる。昨年の公演で最新弾き語りアルバム『Soft Landing』の表題曲をいち早く聴かせてくれたのも実に嬉しかったし、「ひとつだけ」、「ごはんができたよ」、「David」といったエヴァ―グリーンもこの日・この時にしかない表情を湛えて聴衆に差し出される。“この曲に、こういう一面があったのか”、“この曲がこんなふうになるなんて!” 音楽はナマモノなり。それをしたたかに伝えてくれるのも矢野顕子トリオの尊さなのである。 幅広いレパートリー+ハイレベルな歌唱&演奏+独創性のてんこ盛りで、唯一無二の道を進む矢野顕子トリオ。4月にニューヨーク「ジョーズ・パブ」で行なわれた公演も大好評だったときく。8月から始まる日本公演では結成10周年を踏まえつつ、さらに大胆不敵に、次なるデケイドを視野に入れた圧巻のステージで聴き手を引き込む。

    原田和典(音楽評論家)


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